支那文学の四大古典小説のひとつ「三国志演義」は、近年の「レッドクリフ」などを例に出すまでもなく、いまなおさまざまな形で作品化されて続けているわけですが、ぼくにとっての「三国志」は、まず中学生の頃に読んだ吉川英治の小説。
正直言って、個人的にはそのドラマツルギーにそれほど魅了されたわけではなく、吉川英治の作品の中では「宮本武蔵」や「新平家物語」のほうを好んで読み返したものです。
あえて言えば、数々の名場面よりもむしろこの長編小説のプロローグにあたる部分で、後に蜀漢を興し昭烈皇帝となる劉備玄徳が、広大な支那大陸に悠久の年月にわたって降り注ぐ黄砂によって形成された黄色い大地と黄河の流れに思いを馳せる中、その「黄」の色を旗印に遼原の火のように広がっていく黄巾の乱のようすを綴った、叙景と抒情と叙事の交錯する描写のほうが、強く印象に残っています。
そしてこれを読んでいた頃、ちょうどNHKテレビで放映されていたのが、現在もその完成度が高く評価されている名作「人形劇 三国志」でした。
いまでは全16巻のDVDとなって発売され、30年近く昔の作品でありながら絶賛のコメントが寄せられている作品ですが、当時ぼくがこの番組がテレビで放送されるたびにいつもいちばん楽しみだったのは、実はエンドロールの部分だったのです。
人形劇 三国志 エンドロールのテーマソング
吉川英治「三国志」の冒頭をも思わせる、黄味がかった大地を駆ける騎馬の群像。
同じNHKの「シルクロード」の映像を流用して加工したものとのことですが、その画とあわせて流れる歌と音楽が、たまらなくいい。
まるでラブコメのアニメ・ソングのような歌詞のこの歌が、どうしてこんなに感性を揺さぶってくるのだろう?と、我ながら不思議に思っていたものです。
もちろん、ぼくも時代の子なので、当時流行していたYMOを聴いていなかったわけではありません。
けれど、やがてニール・ヤング経由ではっぴいえんどを聴くようになり、そのソロ活動の変転と系譜をたどるようになってから、たまたま再放送で「人形劇 三国志」を見ていて、その音楽のクレジットに「細野晴臣」の名を見つけて、ものすごく納得してしまったのは、それから数年後のことでした。
この「三国志ラブ・テーマ」を歌った小池玉緒という人のことを、すっかり忘れてしまっていましたが、やはりYMOと絡んで「鏡の中の10月」という曲をリリースしていたり、いくつかのテレビCMに出演したりしていたそうです。
そんな彼女の未発表トラックがYou Tubeにあるのを、たまたま大好きなスライ&ザ・ファミリー・ストーンの傑作アルバム「暴動(There's a Riot Goin' On)」の収録曲"Runnin' Away"を探していて、見つけてしまいました。
You Tube 小池玉緒 / ラニン アウェイ (1983)
もとより、このカバー・ヴァージョンの方がいい、などと言うつもりはありません。
というのは、原曲があまりにも最高だからです。
けれど、オリジナルの歯切れがよくキュートで小粋な感じを絶妙にやわらかくアンニュイな雰囲気に傾斜してみせて、独特な雰囲気を作り出すことに成功した佳い出来だと思います。