トクマルシューゴの待望の4thアルバム「PORT ENTROPY」に寄せて





トクマルシューゴ「PORT ENTROPY」フライヤー



このブログに「トクマルシューゴ - Rum Hee」の記事を書いて、気になるアーティストとしてご紹介させていただいたのは昨年の7月のこと。

https://timeandlove.seesaa.net/article/200907article_4.html

その末尾に書いた部分には、ぼくの容姿をよく知る人たちから口々に「ほんとうに似てる」「そっくり」「本人じゃない?」といった反響をいただいてしまったものです。

それはともかく、その後数ヶ月の間にSONY「VAIO」 CMやバンクーバー・オリンピックのスポット広告での楽曲起用、それに何よりも「無印良品」のBGMで、トクマルシューゴの音楽を耳にしない日はないくらい、おそろしい勢いでメジャーな存在になってしまいました。

10月には吉祥寺の銭湯「弁天湯」でのイベント「風呂ロック」に出演したのを観に行くことができた葉子たちから、やっぱりライブがすごくいいという報告をうらやましく聴きながら、時にはテーマ音楽を手がけているNHK「ニャンちゅうワールド放送局」に出演しているのも欠かさずチェックして、アルバムの完成を楽しみにしていたのです。



ニャンちゅうワールド放送局ーゴーシュ



ちなみに、この「ニャンちゅう」での役名「ゴーシュ」のことを、ぼくはずっと宮沢賢治「セロ弾きのゴーシュ」が出典だとばかり思っていたので、最近になってシューゴのズージャ語読みとのダブル・ミーニングだったことに気づきました。

それにしても、トクマルシューゴの音楽の魅力はいったい何だろう?

「だれにも似てなくなくなくなくない♪」と歌う「ニャンちゅう」のエンディングのように、ぼくがこれまで聴いてきた音楽の何かに似ているようで、何にも似ていない。

でもやっぱり、何かに似ているような気もする。

大雑把に、かつての「渋谷系」のリバイバルみたいに言われることもあるようですが、ぼくにはそんな気がしない。

その音楽をどこに位置づけたらいいのか思いあぐねながら、3月には自らオープニング音楽を担当しているNHK「トップランナー」に出演しているのを見て、ちょっとヒントを得たような気がしました。





ホームセンターを訪れて灰皿や植木鉢や食器やらを楽器に見立てるトクマルシューゴ。

スコップを叩いて、「もうちょっと錆びてたほうがいい」とか言いながら物色する彼のリズムに、ぼくは身に覚えがあるような気がしたのです。

それはもう20年くらい前ボ・ガンボスのライブで手のひらが腫れるくらい手拍子を打った記憶のある、ボ・ディドリーのジャングル・ビート、ニューオリンズのセカンド・ラインを思わせるリズムだったのです。

ことさらに、トクマルシューゴの音楽が、直接そんなルーツ・ミュージックを核としていると言いたいわけではありません。

けれど、むかしブルース・インターアクションズ=Pヴァイン・レコードのカタログを宝物の地図のように眺めて、ただ無邪気に未知のリズムを探し求めていた少年の頃のような気持ちにさせてくれるのが、トクマルシューゴの音楽の本質的な楽しみなのだと気づいてしまったのでした。


Gumbo Ya Ya - NewOrleans R&B Hit Parade



たとえば、「ニューオリンズ・ヒット・パレード~ガンボ・ヤ・ヤ」というLP2枚組の好編集のコンピレーション盤を入手した時など、その中に詰まった音のすべてを浴びるように聴くことが、ただ喜びに満ちあふれていて、ものすごくステキなおもちゃ箱を手に入れた子供のようにうれしくなってしまったことを思い出します。

そしてその中に収められた60年代ニューオリンズのヒット曲の数々は、はかりしれない影響力をポップ・ミュージック・シーンに与えた、発掘されたばかりの宝石の原石のようなものでもありました。


トクマルシューゴのCDの発売元が、かつてブラック・ミュージックを通してぼくらにそんな喜びを与えてくれたPヴァイン・レコードであることが、偶然なのかどうかはわかりません。

けれど、待ち望んでいたトクマルシューゴの新しいアルバム「PORT ENTROPY」も、様々な楽器が織りなすホンキー・トンクな音程と躍動感たっぷりの不思議なリズムとが、どこまでもポップに仕上げられた、期待以上にステキなオモチャ箱みたいな1枚となってぼくらの前に届けられたのです。

そのCDを聴き終えたときの気持ちは、ちょうどむかし「ガンボ・ヤ・ヤ」を聴き終えたときの興奮とそっくりでした。





Twitterでサニーデイ・サービスの曽我部恵一さんのツイートをフォローしていたら、ニューオリンズ・クラシック・チューンがぎっしりつまったドクター・ジョンの名盤 「GUMBO」を評して、「"IKO IKO"と"BLOW WIND BLOW"を繋ぐピアノが美しい。野蛮と洗練を極めた倒錯的世界観。」とつぶやいていたのが印象に残りました。

野蛮と洗練を極めた倒錯的世界観。

あるいはトクマルシューゴの音楽の魅力も、そんなところにあるのかもしれません。

そして、かつてのニューオリンズR&Bがそうであったように、音楽そのもののアイデアの源泉として、この「PORT ENTROPY」というアルバムが2010年代のマスターピースとなるような予感さえしているところなのです。


関連ニュース - 曽我部恵一×トクマルシューゴの対談公開
http://www.barks.jp/news/?id=1000060085










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